先日、JRの尼崎駅に降りた時、時刻表を見た。脱線した電車と同じく、この駅から大阪の北新地などへ向かう線の本数は、朝8時台で上りが13本だった。そして、大阪駅や京都駅へ向かう線の方には、40本あった。東京の山手線が二十数本だから、確かに、かなり密だと思った。

 JR西日本は、今後の安全策の一つとして、過密と指摘されているダイヤを見直すという。主要路線で便数を減らすとすれば、民営化以来初めてである。重大事故が起きて、ようやく、増発と加速に歯止めがかかりそうだ。

 初の減便は、この会社にだけではなく、便利さを求め続けてきた社会にも、歯止めが必要なことを示しているのかも知れない。「便」とは「人を鞭(むち)うって柔順ならしめ、使役に便すること」と、白川静さんの『字統』にある。そこから、「便利」「便宜」などの意となる。「便々」とは、唯々としてことに従うことという。

 脱線事故の後の、職員らのボウリング大会や宴会などが指弾されている。いったん計画されたものごとが、何かのブレーキがかからない限り実行されるのは、JR西日本だけに限らない。

 しかし、予定外のことが起こったと知れば、責任者は対応を検討し、必要ならば急ブレーキをかけるはずだ。そのブレーキが極めて弱かったか、無かった。現場で救助活動をしなかった例を含め、「便々」とした人が多かったようで残念だ。

 脱線事故への怒りや不安に乗じるかのように、線路への置き石や、置き自転車が頻発している。こうした「便乗」はあさましい。