英語では、bullet(弾丸)と、ballot(投票用紙)は、見た目も、発音も似ている。英紙ガーディアンは、イラクの国民議会選挙の社説の見出しを「弾丸と投票用紙」と付けていた。

  確かに、武装勢力は「投票する者には弾丸を」という意味のことを言っていた。すぐ近くで迫撃砲による攻撃と銃撃戦があった投票所に来た高齢の女性が言ったという。「私たちはイラクの将来のために犠牲になる」。選挙という仕組みに、これまでにない形を付け加えた今度の選挙とは何だったのか。名前を付けるとしたら、どう呼んだらいいのだろう。

  まず「命がけ選挙」ではあった。実際、多くの人たちが、テロ攻撃によって命を奪われた。武装勢力側も命がけで選挙を阻止しようとし、一部は自爆テロに走った。守る側も含め、異様な「武装選挙」だった。

  選挙を推進する側からは「一里塚選挙」ないし「試金石選挙」だった。米軍の占領からイラク国民の自治へと至る道筋の中で、選挙ができる段階にまでたどり着いたことを確認する。そして世界へと訴える。選挙後「際立った成功」と語ったブッシュ米大統領にとっては、肝心要の「アピール選挙」だった。

  「目隠し選挙」でもあった。これほど世界の注目を集めた選挙を、世界のほとんどのメディアが、現場で見て伝えることができなかった。投票するかどうかが、宗教上の立場であらかじめ分けられた点では、総選挙ではなく「半選挙」だった。

  今後も気がかりだが、「内戦予備選挙」などという名だけは付いてほしくない。