「火の車を、いよいよやる」「なんだい、それは」「居酒屋」「だれが店へ出んの?」「おれ」「そいつあ、だめだ」。葬式帰りの電車の中で、「だめ」と言ったのは小林秀雄、言われたのは草野心平である(『草野心平全集』筑摩書房)。

 戦後の52年、心平は東京で「火の車」を開く。「思ひ立つたのも生活が火の車だからだつた」。焼き鳥などが自慢の店だったが、店に立つ本人はじめ文壇などの酒豪が押しかけ、けんかもしょっちゅうで数年でつぶれた。

 けたはずれの火の車状態なのに、つぶれない風を装っているのが日本という国だ。その財政を平均的サラリーマンの家計に見立てた記事があった。月収は52万円でローン返済が20万円だ。出費がかさみ、新たに月々37万円の借金をしている。ローン残高は約7090万円にもなる。

 国がつぶれないのは国債を出し続けているからだが、とてつもない負担で将来の世代がつぶれかねない。むだな工事のほか減らせるところはいくらでもあるはずだが、新年度予算案は衆院を通ってしまった。

 国の主な収入である税金の徴収は公平だろうか。消費者金融大手の「武富士」の創業者の長男が1600億円を超える贈与の申告漏れを指摘された。宇都宮、長野、松山の各市の一般会計予算を大きく上回る額である。

 「きのうもきょうも火の車。道はどろんこ。だけんど燃える。夢の炎」。店主作の「火の車の歌」だ。ここでの騒乱からは、詩精神の炎があがった。国会が十分に機能せず、財政の乱脈が続けば、国民に襲いかかる炎があがる。