樫(かし)と葦(あし)が頑丈さを競い合った。大風が吹いた時、葦は体を曲げ突風に身を任せて、根こそぎにされるのを免(まぬ)かれたが、樫は、抵抗して根っこから覆されてしまった(『イソップ寓話(ぐうわ)集』岩波文庫)。

 強い者に対しては争ったり抵抗したりすべきではないという教えがこめられているという。確かに、葦のしなやかな対応ぶりや、そのしぶとさはいい。しかし風に向かって立ち続ける樫の姿にも、捨てがたいものがある。

 どちらが樫で、どちらが葦というのではない。吹きつけてくる大風をしのごうとして、手だてを競い合うフジテレビとライブドアの姿に、この寓話を連想した。

 東京地裁が、ライブドアの主張を認めて、ニッポン放送が予定していた新株予約権の発行を差し止める仮処分を決定した。フジテレビは、今度は、どんな構えでしのごうとするのか。ライブドアは、インターネットという新しいメディアの勢いに乗って大きくなってきた。フジテレビは、戦後の日本に築かれた巨大な電波メディアの一つだ。来歴も機能も異なる。

 イソップには、狐(きつね)と豹(ひょう)が競い合う話もあった。豹が二言目には体色の多彩さを言い立てるので、狐が言った。「わたしの方がどれ程美しいことでしょう。だって、体ではなく、心が多彩なんですもの」。体の美しさより知性の装いが大事なことを説いているという。

 これも、どちらがどちらと言うのではない。本来、両者の競い合いは、それぞれのメディアの中身でするものではないか。それが、株の数の競い合いになっているところが残念だ。