ベストセラー小説「電車男」の主な舞台は、東京近辺の通勤電車である。主人公が思いを寄せる女性は、夜の車内で酔漢にからまれ、朝は朝で痴漢に遭う。

 痴漢の多さで知られるJR埼京線が今月、朝のラッシュ時に女性専用車両を設けた。10両編成の1両目が男子禁制とされた。すぐ隣の一般車両から観察すると、女性車両はゆったりと空いて見える。女性たちは心おきなく携帯メールを楽しみ、気がねなく座席で化粧をする。ぎゅうぎゅう詰めの男性客は、ねたましそうだ。

 女性車両には1世紀近い歴史がある。都心を走る「婦人専用車」が中央線に登場したのは明治の末。朝夕の混雑にまぎれて女子学生に恋文を手渡す行為が問題とされた。男子学生を遠ざけ、痴漢を寄せつけない策だった。終戦直後の「婦人子供専用車」は、殺人的な混雑から女性を守るのが狙い。当時は列車に冷房などなく、今とは比較にならない込み方だった。

 昭和40年代にシルバーシートがお目見えして、女性車両は姿を消す。復活したのは5年前、痴漢の被害が増えたためだ。

 女性車両の導入が進んだ関西では、各線で被害が減った。首都圏でも連休明けの5月9日から、主な私鉄や地下鉄が朝の女性車両を始める予定だ。

 導入済みの路線ではどこも、男性から不満が出る。「混雑する」「不平等だ」。兵庫県の神戸電鉄は昨春、男性からの苦情に応えて、導入2カ月で女性車両の運行を減らした。男女隔離のほかに解決策はないものか。埼京線の込んだ車内で思いをめぐらせたが、妙案は浮かばなかった。