新しいブランド名の考案を請け負う人の仕事場に行ったことがある。マンションの一室で、原則として注文主の企業の人しか入れない。新しい名前の案がコンピューターの画面に浮かんでいれば、一瞬で読まれ、盗まれてしまうからだ。

 その部屋に「名前の盗人」が侵入したとしよう。画面にこんな文字が浮かんでいたら盗む気になるだろうか。「NPO」「ボランティア」。新しい商標にするには、あまりにも一般的過ぎると見過ごしてしまうかも知れない。

 特許庁が、いったんは角川ホールディングスに商標登録を認めていた「NPO」と「ボランティア」について、登録の取り消しを決定した。NPO(非営利組織)の側から「一般的な言葉を営利目的で登録するのはおかしい」という異議申し立てが出ていた。

 特許庁は「特定の人に独占使用を認めることは公益上、適当とはいえない」などと取り消しの理由を示した。当初の「登録認可」とのずれはあるが、現代の商標のあり方を考える例として経過を見守りたい。

 特許庁のホームページには、商標の登録ができない一般的な例が載っている。靴の修理についての「靴修理」、鉛筆で「1ダース」、自動車で「デラックス」、靴で「登山」、飲食物の提供で「セルフサービス」。いずれも「自己の商品?サービスと、他人の商品?サービスとを識別することができないもの」だ。

 商標のつけかた一つで売り上げが大きく変わることもある。商標請負人の仕事場を見たのは十数年前だが、1件で数百万円の注文もあると言っていた。