加盟する各国が、同じ一人の大統領をもつ。そんな「欧州大統領」の誕生を盛り込んだ欧州連合(EU)憲法条約についてのオランダの国民投票で、反対票が約6割に達した。

 フランスでの国民投票に続く「ノーの連鎖」となった。早足で進んできた欧州統合だが、両国民は、やや手綱を引くようにと意思表示したかに見える。

 衆院憲法調査会の資料で、EU憲法条約を読むと、前文には歴史を顧みる一節があった。「辛苦の諸経験の後に再び合同した欧州は、最も脆弱(ぜいじゃく)苦難の身にある住民におよぶすべての住民の幸福のため……」。戦争は、勝っても負けても悲惨な結果をもたらす。勝者はいない。手をたずさえて歩むしかない。そんな思いがにじんでいるようだ。

 EUが基礎に置くべきものとしては「人間の尊厳、自由、民主主義、平等、法の支配、少数者である人々の権利を含む人権の尊重」とある。こうした基本理念では合意しながらも、それぞれの国民感情や、自国の政治への評価の違いなどが、国民投票の結果に映っているのではないだろうか。

 25カ国にまで拡大したEUだが、欧州とアジアの境目にあるトルコの加盟を巡って見方が分かれている。今回の「ノーの連鎖」は、秋から始まる加盟交渉に響くかもしれない。

 ヨーロッパという言葉は、ギリシャ神話のフェニキア王の娘エウロペから来たとの説がある。エウロペは牛になったゼウスにさらわれる。歴史的な「平和な統合」を試みる現代のエウロペの方は、足元をよく確かめながら、行き先を見定めてもらいたい。