衆議院には、「議場内粛正に関する決議」というものがある。「議場の神聖を守るは国民の信託を受けたるわれらの最大の義務なりと信ず。よって今後議員は酒気を帯びて議場並びに委員会に入ることを厳禁すべし」

 日付は、戦後間もない昭和23年の暮れである。決議の少し前、国会内の食堂で、泥酔した蔵相が女性議員に抱きつき、蔵相と議員を辞職している。昔は「良識の府」などと呼ばれていたからかどうかは分からないが、参議院の方には、同じような決議は無いという。

 半世紀以上を経て、粛正決議が突然注目されている。先日の衆院本会議に飲酒をして出席していたとして、与野党双方の議員計18人の懲罰動議が出された。

 民主党から「飲んでいた」と名指しされた小泉首相は「一滴も飲んでいない」と、委員会で岡田代表に強く反発した。難問が山積している この国会で、飲酒を巡る「党首討論」が盛り上がって目立つのは、いささか珍妙で、わびしい感じもする。

 国会の「本場」といえばイギリスであり、イギリスといえばパブである。英国議会の近くにも伝統のパブがある。議会の空き時間には、議員たちがアルコールを楽しむという。本会議や採決の時間が近づくと、その日程に合わせて店のベルが鳴る。議員たちはぞろぞろと店を出て議場に向かう。

 国会に限らず、判断に悪影響が出るような酒は控えるのが、たしなみというものだろう。しかし反論も聞こえてくる。「飲んだ方がいい判断ができる」。人をそんな気にさせてしまうのも、酒のこわいところである。