ハリウッドを代表するアクションスター、スティーブ?マックイーンが、50歳の若さで他界したのは80年の秋だった。末期のがん(胸膜中皮腫(ちゅうひしゅ))に侵されており、原因はアスベスト(石綿)ではないかといわれた。

 車のブレーキの内張りや、レーサー用の不燃スーツの裏地など、アスベストは、マックイーンがその人生を通じて使ったほとんどの乗り物に何らかの形で存在していた(W?ノーラン『マックイーン』早川書房)。

 アスベストは「不滅」あるいは「消すことのできない」を意味するギリシャ語に由来するという。熱や酸に強く、物の形に従いながら半永久的に存在し続ける。

 広瀬弘忠著『静かな時限爆弾』(新曜社)によると、アスベスト利用の歴史は石器時代にまでさかのぼる。古代ギリシャでは神殿の金のランプの灯心として使われた。既にギリシャ?ローマの時代には、アスベストを採掘する人や、その繊維を紡ぐ職人に肺疾患が多発していたという。

 日本での、アスベストによる健康被害の実態がようやく明らかになりつつある。多数の工場従業員だけでなく、夫の作業着を洗濯する時にアスベストを吸い込んだ妻までが、中皮腫で亡くなったという。どこかで吸い込んだだけで発症の危険をはらむなら、誰にでも起こり得ることだろう。

 発症までの期間の極めて長い「不滅の爆弾」が、本格的に爆発するのはこれからともいう。被害の全容をつかみ、治療の手だてを探る。爆弾を安全なやり方で除去する。それが、遅まきながら、不滅を不発に変える道ではないか。