まず、ぽっかりと開いた目にひきつけられる。黒い穴のような目の先に短いくちばしがあり、右の肩から翼が伸びている。和歌山市の「岩橋(いわせ)千塚古墳群」で出土した鳥形埴輪(はにわ)の写真を見て、一時心がなごんだ。

 埴輪の顔が私たちをひきつけるのは「切りとった目ゆえである」と国立歴史民俗博物館の館長だった佐原真さんが書いていた。「埴輪の顔に対するとき、人はおだやかな眼差となる。切りとった目は、目の輪郭にすぎず、黒目がない。埴輪は相対する者を凝視できない」(『日本の美術』至文堂)。

 人物埴輪についての記述だが、動物の埴輪にも通じるところがあるように思う。「埴輪に対する人は、見つめられることなしに、見つめることができる」。それだから、やすらいだ気持ちで埴輪に向かうことができると佐原さんは記す。

 東京?両国の江戸東京博物館で開催中の「発掘された日本列島2005」には、全国各地からの様々な出土品と共に埴輪も幾つか展示されている。中に奈良県巣山古墳で出土した3羽の水鳥形埴輪がある。白鳥を思わせるこの埴輪の目は、くりぬかれてはいない。しかし、これはこれで、じっと遠くを見ているような風情がある。

 鳥形の埴輪には、死者の魂を来世に運ぶといった解釈もあるそうだ。翼を広げたものが出土したのは、今回の和歌山が初めてという。奈良文化財研究所の高橋克寿?主任研究官は「渡り鳥のように飛ぶことが得意な鳥をモデルにしたと考えられる」という。

 古代からよみがえった謎の鳥は、想像の翼を広げてくれる。