それを「商品です」と言われても、しっくりこない。現物を見たり手にとったりできないし、金を払ってすぐに届くわけでもない。保険とは独特な「商品」だ。

 説明を受け、事故や災害に遭うことを想像しながら契約を結ぶ。そして、できればその日が来ないようにと願う。地上から絶えることのない膨大な不安の上に成り立った安心の仕組みの一つである。

 大手の損害保険各社の社内調査による保険金の不払いが、1社あたり数万件、数億円程度にのぼる見通しとなった。大半は自動車保険で、事故の相手を見舞う時の花代や事故車の代車費用といった、基本契約に上乗せした「特約」の部分で多いという。

 近年、業界では競争が加速し、各社がさまざまな特約を開発して売り込んできた。契約内容の確認もれなどが不払いの原因で、わざと支払わなかったのではないとの釈明も業界にあるようだ。しかし、いざ助けが必要となった時に約束が果たせないのでは、何のための保険なのか。

 事故に直面した時、人は、まず平静ではいられない。細かい特約など、思い起こせる人は多くはないはずだ。そんな時だからこそ、損保会社は契約をきちんと履行し、支援すべきだろう。

 金融庁は先月、損保や生保による不当な不払いなどの事例集を、初めて発表した。今年の2月には、明治安田生命が業務停止を命じられている。保険業界は、安心の仕組みを売り続けてきた。しかし、その業界の内側に、消費者が安心できるだけの仕組みがあるのだろうか。疑問を抱かせることが続いている。