畳、ソファ、カーペット、扇風機、クッション、いす。前夜までは家族とともにあった品々が、泥水の名残をとどめた路上に並んでいる。昨日の朝、東京都杉並区の住宅街で見た光景だ。はるか遠くにある台風14号の影響で起きた集中豪雨で浸水した。

 そこここにパトカーが止まり、区職員や消防署員の姿も見える。ガスや電力会社の担当者も復旧へ向けて走り回っている。前夜の冠水による混乱は、既に収まっていた。

 混乱が続き、復旧が遅れて「人災」の面がいっそう濃くなっているのが、アメリカのハリケーン「カトリーナ」の被害だ。被災から1週間、一時の無秩序状態からは抜けだしつつあるが、行政や警察の初動の遅れに批判が強まっている。

 政府は、衛生状態が悪化しているニューオーリンズ市から、全住民を避難させる方針だという。しかし、避難を呼びかけても応じない人も少なくない。行政の意図が空回りしているようだ。

 ブッシュ大統領は急きょ、ルイジアナ州などの被災地を再び視察することにした。2日に視察したばかりだが、その際に見たのは現地の空港と堤防の決壊した場所だけで、略奪や銃撃の続く市街地には目もくれなかった。それが「空からハリケーンの跡を眺めただけだ」と批判された。

 「カトリーナ」よりも暴風域が大きいという台風14号が、日本列島に刻々と近づいている。「阪神大震災以降、地震への防災意識は高まったが、風水害への警戒が薄れている」。京都大防災研究所の所長、河田恵昭さんの警告をかみしめながら備えたい。