朝刊に挟み込まれて届いた衆院選の選挙公報を見る。東京の各政党から来た原稿を、都選管がそのまま印刷して発行した。党首や候補者の写真、キャッチフレーズがひしめく中に、短い一文が目についた。

 「日本を今一度洗濯いたし申し候」。幕末の志士、坂本龍馬の言葉で、姉の乙女に送った手紙の中に出てくる。徳川幕府に対し、薩長連合を策して大政奉還に力を尽くした龍馬の心意気と気迫が伝わってくる。

 言葉は古びていないし、「洗濯」は今の日本にも大いに必要だと思われる。しかしこれが、「改革を止めるな。」のキャッチフレーズや党首の写真とともに、選挙公報の一角に置かれているのは、いささか違和感がある。

 この文の下には「TOKYO自民党も、この言葉のように、断固とした決意をもって改革に臨みます」とある。多くの日本人の心をつかむ龍馬 の言葉と並んでいるのを見て、気恥ずかしい思いもしたが、ほかの各党がどんな「日本の洗濯」を掲げているかを公報で横断的に見るきっかけにはなった。

 アメリカからペリーの黒船が来航して、欧米の列強の脅威にさらされた龍馬の時代には、日本という国の成り立ちそのものが大きく揺らいだ。そこまでの切迫感はないとはいえ、今の日本でも、将来の国の成り立ちが大きく揺らぐような難題は数多くある。

 公報では、各党それぞれに、課題と方策をあげていた。しかし、くっきりと目に浮かんでくるような「洗濯」の仕方は、なかなか見あたらない。龍馬ならどんな「洗濯」をするのか、聞いてみたい気がした。