清の時代に書かれた長編小説「紅楼夢」は、中国の四大古典小説の一つとされる。大半は曹雪芹(そうせつきん)の作といわれ、大貴族の盛衰や、主人公を取り巻く女性らの人間像が多彩に描かれている。

 北京での6者協議の共同会見で、武大偉(ウーターウェイ)?中国外務次官が、「紅楼夢」を劇にした作品の歌詞を紹介したという。「一つ一つの高山、一枚一枚の壁」で、「合意への過程は、我々6者が山を越え、壁を乗り越える過程だ」と述べた。北朝鮮が、すべての核兵器と今ある核計画の放棄を約束した共同声明は、守られれば、世界の安定にとって大きな一歩になる。協議の議長国としてホッとした場面なのだろう。

 武次官は、中秋の名月には月見を名目に夕食会を開き、月餅を振る舞って長時間各国を説得したという。紅楼夢にも中秋の名月のくだりがあった。

 男が酔ってうたう。「時しも中秋十五夜の満月、すがすがしい光が欄杆に囲まれた中庭をくまなく照らし渡している」(岩波文庫?松枝茂夫訳)。「名月の庭」で何が動いたのかは分からないが、各国とも、とりつく島を失わないで済んだ。

 「この大宇宙、もとより東西も南北もないのだから、どこに住みつこうと同じこと。空中より来たからには、空中に去るまでだ」。これも紅楼夢の一節だが、現実世界のくびきは重い。

 日朝間には拉致問題が重く横たわる。北朝鮮が拉致被害者のものとして提出した遺骨は、日本側のDNA鑑定では別人のものと判明した。道は険しいが、政府は共同声明の順守を促しつつ、拉致問題での協議も強く進めてほしい。