ニューヨークの国連本部の総会議場に行ったのは3年余り前のことだ。9?11の同時多発テロから半年後のニューヨークを取材に行き、テロで崩された巨塔の跡を見た後だった。

 総会は開かれていなかったが、がらんとした議場の隅にしばらくたたずんだ。この空間は、いわば米国の中にあって米国ではない。各国が座を占める「もう一つの世界」が、息を潜めて波乱に身構えているようだった。

 その後のイラク戦争で、国連は大きな試練を受けた。国連の創設を主導したのは、ルーズベルト大統領の率いる米国だった。その国が、大量破壊兵器の脅威を掲げて単独行動主義に走り、国連と世界を引きずり回した。

 最上敏樹?国際基督教大教授は、近著『国連とアメリカ』(岩波新書)で「しっぽが犬を振り回す」状態と述べた。最上さんは、第2代事務総長ダグ?ハマーショルドの言葉を引く。「私たちの仕事が平和のための戦いであるなどと言うのは大げさすぎます。しかしこの仕事は、分裂と暴力の洪水をくい止めるためのダムを建設する仕事ではあります」

 国連の事務職員に向けたこのスピーチの直後、ハマーショルドは紛争地に向かう途上で殉職した。最上さんは「いわば国連は、人類がその喪失の淵で踏みとどまるために作られたのだと思う」と記す。

 国連は24日に創設60周年を迎えた。本部ビルは老朽化が進み、先日は天井の雨漏りで総会議場が使えなくなった。建物もさることながら、喪失の淵で踏みとどまるための仕組みも「築60年」を機にしっかり点検しておきたい。