作家よしもとばななさんは、アルバイト先で見たバナナの花に魅せられ、筆名に選んだ。「あんなに大きく変なものがこの世にあるなんてそれだけで嬉(うれ)しい」。バナナに寄せる恋情を『パイナツプリン』(角川書店)に書いている。

 いつか熱帯植物園でバナナの花を見たことがある。花は巨大な苞葉(ほうよう)に覆われ、その紅色が目をひく。夜にだけ開き、芳潤な蜜を求めてコウモリが飛来するという。

 花を目にする機会はあまりないが、実ならだれもが知っている。ことし発表された総務省の家計調査で、初めてバナナがくだものの年間購入量の第1位に躍り出た。長らくミカンが1位で、リンゴが2位、バナナは3位だった。

 フルーツの王者となったのを機に、日本バナナ輸入組合は好調の秘密を調べてみた。大半の果物は食後のデザートという脇役なのに、バナナは朝食や間食の主役として消費が伸びていた。ナイフがいらず、栄養源として価格も手頃なことが人気の理由とわかった。

 かつてはメロンと並ぶ高級果実だった。輸入が始まったのは1903年で、台湾産の「仙人」という品種70キロ分が神戸港に運び込まれた。大変な珍品で、庶民の口には入らなかった。戦後も、1963年に輸入が自由化されるまで、子どもが風邪で寝込んだおりでもないと買えないぜいたく品だった。

 そんなバナナも風邪をひく。業界用語で、産地の気温異常や倉庫での温度管理のミスで低温にさらされ、果皮が黒ずんだ状態をいう。家庭でうっかり冷蔵庫に入れられるのも、熱帯育ちには酷な仕打ちである。