昼過ぎに街の食堂に入る。牛肉を使った料理を探す。いつもは、めん類が多いが、あえて牛を選ぶ。この日は、ハンバーグ定食だけらしい。620円で食券を買う。

 とろりとした褐色のソースのかかった一角を、はしで崩して一口含む。甘みと塩気が程良くて、なかなかうまい。温かいご飯とも合う。もしここで、店主が「いい味でしょ。アメリカ産ですよ」と言ったとしたらと想像する。味そのものは変わらなくても味わいの方はぐらつきそうだ。

 米国産の牛肉の日本への輸入が、年内にも再開される見通しだという。牛海綿状脳症(BSE)の原因物質がたまりにくい月齢20カ月以下の牛に限ったうえで、脳や脊髄(せきずい)などの危険部位を取り除くことが条件だ。

 これを受けて、米農務長官は2日、輸入の対象を「30カ月以下」に拡大するように求める方針を表明した。輸入さえ認めさせれば、あとは交渉次第でなんとでもなるというような強引さを感じさせる。

 農務長官に知らせたいのが、米国産牛肉の輸入についての本社の世論調査の結果だ。「輸入再開に反対」が約3分の2を占めた。「再開されても食べたくない」も同じく3分の2あった。米国産に不信感を持つ人がこれほど多い。様子見といった人もいるだろう。しかし、うまければ、安ければどこのものでもいいというところから一歩踏み出しつつある日本の消費者の姿が読みとれないだろうか。

 「輸入再開、それっ拡大」が通るとは思えない。牛は、幾つかある肉の一つであり、米国は、数ある産地の一つに過ぎないのだから。