「24時間はみんなに平等に与えられているもの。どうか、なんでも夢を持って一日一日を大切に過ごして欲しい……」。東京国際女子マラソンで見事に復活優勝した高橋尚子選手の優勝インタビューでの言葉に、不思議な説得力が感じられた。

 インタビューの前段では、こう言った。「陸上をやめようかとも思ったこともありました。でも、一度夢をあきらめかけた私が結果を出すことで、今、暗闇にいる人や苦労している人に、『夢を持てば、また必ず光が見えるんだ』ということを伝えたい、私はそのメッセンジャーになるんだと、走りながら自分に言い聞かせていました」

 現実の世界は厳しい。夢を口にすれば、きれいごとに聞こえる。しかし、身をもって力を尽くし、闇の中に光を見た人の口から外に流れ出ると、夢という言葉に現実的な強い力が宿るように思われた。

 大きな、アテネ五輪という目標を失った後に独立し、新しい支援チームと手探りで道をたどってきた。今回の大会の間際には、足に肉離れを起こした。レースで将来に響くような事故があれば、本人もチームも批判されていただろう。

 長い、起伏のある過酷な道を行くマラソンは、レースそのものが人生行路を思わせる。大きな一かたまりで競技場を出た選手たちが、やがて小集団に分かれる。それもばらけて直線になり、ついには一人一人が点と点になって戻ってくる。

 高橋選手は「チームのきずなが私を勝たせてくれました」とも述べた。夢を持てば闇の先に光が差すという、一つの願いが通じた。