小1の少女が下校中に連れ去られた栃木県今市市の学校周辺を歩いた。少女の通学路の一つは雑木林をぬける細い道だった。行き交う人影はない。散り敷いた落ち葉を踏む自分の足音だけが聞こえた。

 持って来た防犯ブザーを鳴らしてみた。ビーンビーンと人工的な音が響く。説明書によれば音量は90デシベルだが、ここでは無力だ。人家は遠く、だれの耳にも届くまい。頭上で鳥がけたたましく鳴いた。

 携帯用の防犯ブザーが商品化されたのは1959年である。業界団体によると、もとは痴漢やひったくり犯から女性を守るのが主な用途だった。次いで外回りの銀行員らに広まる。子どもが襲われる事件が続いた数年前から需要が増え、今や全国の低学年児に行き渡りつつある。

 広島市の事件で命を奪われた少女もふだんは防犯ブザーを持って登校していたようだ。ただ当日は電池切れで自宅に置いたままだったらしい。持っていたとしても、魔の手を遠ざけることができたかどうかはわからない。

 栃木県を離れ、少女の遺体が見つかった茨城県へ向かう。車で東へ2時間弱、発見現場の山林は昼間でもほの暗かった。狩猟の下見で男性が通りかからなければ、発見は遅れていたはずだ。事務机を並べた簡素な祭壇に、少女の好物なのか、乳酸菌飲料や鶏の空揚げが供えられていた。

 きのうは京都府の学習塾で惨劇が起きた。小学生の通学や塾通いにこれほど不安を感じた時代があっただろうか。このごろは防犯ブザーだけでなく、寺社のお守りを結わえたランドセル姿が急に増えた気がする。