この一年、小泉首相の言動には、残念ながらなかなか賛同できるものがなかった。そのまま年が押し詰まってきたが、首相は一昨日、「東京の日本橋の上に空の復活を」と述べたという。

 「お江戸日本橋七つ立ち」の古い橋だが、東京五輪を機に川沿いにつくられた高架の高速道路の下になっている。浮世絵で描かれたような開放感はない。その空の復活なら、あるいは賛同できるかと思い、発言をたどってみた。

 「日本橋という昔からの名所、これが上に高速道路が走っているからね。景観もよくないと」。五輪の開催に沸いた時代はともかく、今では、「よくない」と思う人も多いだろう。

 「川の流れ、日本橋、そして、昔ながらの名所を復活すれば、単なる東京の名所になるだけでなくて、世界的な名所になるのではないかと。夢をもって、日本橋の上を思い切って空にむかって広げてみようと」。川のたもとを散策で楽しめるようにしたいとも述べた。

 夢を持つのは悪くはない。そう思って、久々に日本橋に行き、渡ってみた。橋は、高速道路の影の中にあった。行き交う人たちも寒そうだ。確かに、空が開けて陽光が橋に届く方が気持ちがいいだろう。それを待ち望む地元の人たちの思いも改めて実感した。

 そのうちに、今の日本橋の姿は、やみくもに都市開発や道路づくりに走った時代を象徴する負の遺産ではないかという気がしてきた。この橋にとどまらず、日本のその時代と施策とを省みるという視点が伴っていればいいのだが。「空の復活」発言にそんなことを思った。