横殴りの風と雪とで、通りの向かいの家すら見えなくなる。昔、任地の秋田市で何度かそんな体験をした。勤め先では、支局の前の大通りの名を付けて「山王ブリザード」などと呼んでいた。

 真冬に日本海から吹き付ける風には、かなりの力がある。海岸沿いで車を運転していると、何度もハンドルをとられそうになった。しかしその風が、何両も連結した長い列車の脱線にまでからむとは思ってもいなかった。

 秋田発新潟行きのJR羽越線の特急「いなほ」が、山形県庄内町で脱線転覆し、乗客4人が死亡する惨事となった。くの字に折れ曲がった車体は、尼崎市での痛ましい事故を連想させる。

 「いなほ」は新幹線の開通前は上野まで運行されていて、出張に利用したこともあった。それまで平穏だったはずの車内が一気に覆された瞬間を思うと、胸が詰まる。

 原因の究明はこれからだが、突風が一因としてあげられている。列車は、風速によって徐行や運転停止が定められている。今回、現場に近い風速計での観測は20メートル以下で、通常運行の範囲内だったという。しかし現実には脱線が起きた。最上川の長い鉄橋を渡った直後の脱線なので、線路の下の川面から吹き上げる風の強さを指摘する専門家もいる。

 最上川の上流域が出身の歌人、斎藤茂吉が、この川の冬の厳しいさまを詠んでいる。〈最上川逆白波のたつまでにふぶくゆふべとなりにけるかも〉。今年は、いつにも増して雪が深いという。風もまた強いとすれば、その中での列車運行の判断も、より慎重にしてもらいたい。