手元に届いた年賀状の多くには、戌(いぬ)の字や犬の姿が様々にあしらわれていた。その中で、前の戌年よりも目についたのは、愛犬の写真を印刷したものだった。生後16年、14歳などの添え書きもあり、この長寿?高齢の世を飼い主と共に歩んでいるさまが浮かんだ。

 人間とのつきあいが長い生き物だ。民俗学者の南方熊楠が、大正の頃に、こんな寿命にまつわるルーマニアの伝説を記している。

 天の神が生き物たちを召集し、その寿命と暮らし方とを定めたという。人間は、世界の王として君臨し30歳と決められたが、短いと不満をもった。次に、常に重荷を負って50歳と宣告されたロバが、「どうか20年差し引いていただきたい」と言うのを聞いた人間が、その20年をもらい受けた。

 次に犬が呼ばれた。主人である人間の家や財産を守って40年と聞いて震え上がり、半分にして下さいというので、また人間がそれをもらう。さらには、60歳とされたサルの半分も得て、人の寿命は100歳と決まった(『日本の名随筆』作品社)。

 この伝説には、人間は、ロバや犬たちの寿命をもらった分、その動物の苦労も背負ったとも記されている。あたっているかどうかはともかく、とりあえずは、友人たちと愛犬の健勝を祈った。

 この前の戌年だった94年は、細川、羽田の両政権が倒れ、「自社さ」の村山政権ができた。政治の上では変化の多い年だったが今回はどうだろう。年が改まり、秋には首相が代わるとされているようだが、「犬が西向きゃ尾は東」ほどに当たり前にゆくのかどうか。