苦手な英語を長時間聞き続けていると、きまって集中力がとぎれる瞬間が訪れる。慌てて耳を引っ張ったり指で掃除したりするが、もう遅い。話の筋に追いつくのは至難のわざである。

 外国語学習者が例外なく体験することのようだ。感覚としては車の燃料切れに近い。在米中に同じ思いをした作家村上春樹さんは、その自覚症状を「ウルトラマンの電池切れ」と描写している(『やがて哀しき外国語』講談社)。

 今年から大学入試センター試験に英語の聞き取りが登場する。長年の読解偏重批判にこたえた措置だ。50万人もの受験生が、一斉に同じ再生装置を耳につけ、30分間聴覚をとぎすます。ためしに市販の模擬テストCDを聞いてみたが、会話はかなり早口で、思ったより手ごわい印象だ。

 試験中に騒音でもしたら受験生は集中できない。いくつかの大学に尋ねると、「試験日は音量を控えて」と近隣にお願いしたそうだ。たとえば普天間飛行場に近い琉球大学は、ヘリコプターや軍用機が試験日に会場上空を飛ばないよう、防衛施設局を通じて米軍に申し入れた。

 首都大学東京は、キャンパス周辺の大型商業施設や映画館に音響を抑えるよう要請した。どこも快諾してくれて、当日はジャズ演奏や大道芸が中止になるそうだ。

 本番中に問題を聞き直すことはできない。勝負は一度きりだ。思わぬ騒音で気が散り、「電池切れ」を起こす受験生がいないとも限らない。せっかくの勉強の日々が悔し涙で終わらぬよう、今度の土曜の夕方、会場近くの方々はどうかくれぐれもお静かに。