今年も、暑さが極みに達する時節となった。いつも、今時分に取り出して眺める絵がある。江戸狩野派系の画家、久隅守景(くすみもりかげ)の「納涼図屏風(びょうぶ)」だ。本物は国宝で、東京?上野の東京国立博物館の蔵にあるが、古い雑誌から切り取った手元の絵からでも、涼味の一端は伝わってくる。

 つるを伸ばした夕顔をはわせた棚が、横に長く描かれている。棚の下には、地べたに敷いたござのような敷物でくつろぐ親子3人の姿がある。一日の仕事が終わったころなのだろう。夫は肌着をまとい、腹ばいになってほおづえをついている。そばに腰巻き姿の妻が座り、ふたりの間から童子の顔がのぞいている。

 画面の上半分に空が広がり、左手には、おぼろな月が浮かんでいる。親子の顔の向きはほぼ同じで、一緒に月を眺めているようにも見える。天と地と人が、とけあっているかのようだ。

 質素とも粗末とも言える暮らし向きだが、飾りもののない簡素な図が、涼やかさを運んでくる。現代の暮らしは、人工的な物に密に取り囲まれているから、素朴でのびやかな空間に心引かれるのだろうか。都会では、日差しをさえぎる夕顔の棚をつくれるような庭などは、かなりぜいたくな部類だろう。

 近年、打ち水で少しでも都会の熱をさまそうという運動が広がっている。夕顔の棚はなくとも、風呂の残り湯などで水を打てば、街を冷やす効果とは別に、心にも涼しさをもたらすかも知れない。

 国宝の夕顔棚の納涼図屏風は、8月2日から9月11日まで、東京国立博物館の平常展で一般に公開されるという。