一瞬を切りとった写真が、時代を語ることがある。60年前のきょう、9月29日の新聞各紙を飾った1枚がそうだ。

 両手を腰に当てた軍服姿の180センチと、モーニングを着て直立する約165センチ。朝日新聞の見出しは「天皇陛下、マツクアーサー元帥御訪問」だ。勝者の余裕と敗者の緊張が並ぶ構図は、人々に日本の敗戦を実感させた。

 撮られたのは掲載の2日前。昭和天皇が米大使館に元帥を訪ねた初会談の時だ。外務省の公式記録には「写真三葉ヲ謹写ス」とある。「元帥ハ極メテ自由ナル態度」で、天皇に「パチパチ撮リマスガ、一枚カ二枚シカ出テ来マセン」と説明した。

 未発表の2枚はいま、米国バージニア州のマッカーサー記念館にある。1枚は元帥が目を閉じている。別の1枚は天皇が口元をほころばせ、足も開いている。どちらも、発表されたものに比べて、天皇が自然体に構えている。そのぶん「敗者らしさ」が薄まって見える。

 あの写真は勝者を際立たせただけでなく、時代の歯車も回した。載せた新聞を、内閣情報局が発売禁止にすると、これに怒った連合国軍総司令部(GHQ)が「日本政府の新聞検閲の権限はすでにない」と処分の解除を命じた。同時に、戦時中の新聞や言論に対する制限の撤廃も即決したのだ。

 翌30日の新聞で、それを知った作家の高見順は『敗戦日記』(中公文庫)に書いた。「これでもう何でも自由に書ける……生れて初めての自由!」。こんな、はじける喜びの浮き浮きした感じにこそ、あの写真が語り継ぐ時代の重さの実感がこもっている。