お追従者からいかに身を守るか。たいへん難しいが、君主にとっては極めて重大な問題だ、とマキャベリが述べている。

 「そもそも、お追従者から身を守る手段は、真実を告げられてもけっして怒らないと人々に知ってもらうしかない」。しかし、誰が言ってもいいとなると尊敬の念が消えてしまう。そこでマキャベリが勧めたのは、何人かの賢者を集めて彼らに自由に真実を語ってもらう仕組みだ(『君主論』中公文庫)。

 NHKの会長辞任劇を見ながら思った。マキャベリの指摘するような「君主の陥穽(かんせい)」にはまっていたのではないか。追従者が重用されるような組織になっていはしなかったか。それをチェックする賢者集団であるはずの経営委員会が、はたしてよく機能していたかどうか。

 皮肉なことに最もよく機能したのが、そもそも論議の多い受信料という仕組みだった。不祥事や対応のまずさに敏感に拒否反応を示した。組織の土台を揺さぶる動きである。

 NHKと似たような受信許可料制度で運営される英国のBBCが数年前にこの制度をめぐる世論調査をした。制度が必要だとする人は69%だった。いまの料金に満足しているという人は53%、非常に不満という人は15%だった。自画自賛気味ではあるが、BBCを英国の財産とみる人が90%にのぼるなどといった数字を挙げながら視聴者の信頼は高いとしている。

 過去、政府と厳しい緊張を強いられることもしばしばだったBBCの経験はNHKにも参考になるだろう。視聴者そして国民の信頼があってこその公共放送である。