「かくて彼らはその剣を鋤(すき)にうち変え、その槍(やり)を鎌(かま)に変える。国は国に向かって剣を上げず、戦争(たたかい)のことを再び学ばない」

 旧約聖書のイザヤ書(岩波文庫)に出てくる有名な言葉だ。命を奪い合うための剣や槍を溶かし、命を養うための鋤や鎌につくりかえる。時代を超えて訴えかける平和への祈りである。この言葉がニューヨークの国連本部の向かいにある小さな広場の壁に刻まれている。

 国連事務次長などを務め、1971年に死去したラルフ?バンチにささげられた銘だ。彼は大学時代のスピーチコンテストで、まずこの言葉を引用して演説を始めたという。以来、しばしば引用した愛用の言葉だった。

 黒人として初めて米国務省高官になり、国連創設にあたって国連憲章の起草にも深くかかわった彼は、50年にノーベル平和賞を受賞した。第1次中東戦争を和平に導いたことが評価された。しかしかの地では、あれから何度の戦争が起き、何度の和平の挫折が繰り返されたことか。

 いままた、アラファト議長の後を継いだアッバス氏がパレスチナ和平の再構築を図ろうとしている。容易な道ではない。薄氷を踏むような思いの連続だろう。ラルフ?バンチの死去に際し、当時のウ?タント国連事務総長が彼をたたえた言葉を思い起こしたい。「ラルフは理想主義者であり、また現実主義者でもあった」と述べつつ、和平の試みは「やりなおすのに遅すぎるということはない、と彼は信じていた」

 剣を鋤に、が祈りではなく現実になりうる。そう信じて和平への道を探るしかない。