米国で最も親しまれている硬貨が、クオーターと呼ばれる25セント硬貨だ。少々大ぶりだが、自動販売機をはじめとして、ちょっとした買い物には欠かせない。

  50種類ものクオーターを発行する計画が6年前から進行している。50州が硬貨の裏にそれぞれ独自のデザインを考え、順次、米造幣局が発行していく。各州の歴史や特色を図案に取り入れることが条件だ。多くの州では、デザインを公募、最終的には知事が決める。

  ニューヨーク州だったら誰もが考えるのは「自由の女神」だろう。実際、4年前に発行されたクオーターでは、州の外形を背景に「自由の女神」が描かれた。そして「自由への玄関」の文字を浮き彫りにした。9?11テロの前のことだった。

  バイオリンとギターとトランペットを描き「音楽の遺産」と銘打ったのはカントリーミュージックの故郷テネシー州だ。一方、ジャズの都ニューオーリンズをかかえるルイジアナ州もトランペットを欠かすわけにはいかない。州鳥のペリカンを加えた図案になった。

  99年に始まり、08年までの10年計画で進んでいる。憲法を批准し、合衆国に加わった順番で発行されるからハワイ州が最後だ。もちろん硬貨は州外でも通用する。「無難なデザインが多すぎる」という批評はあるが、話題づくりには成功した。推進する米造幣局は「クオーターでアメリカの歴史と地理、そして多様性を学ぼう」と呼びかけている。

  確かに偽造硬貨騒ぎに関心が集まるよりは、はるかに建設的で、いかにもアメリカらしい「多様化」の試みである。