本名は、赤羽丑之助である。とはいっても、小説の主人公なのである。獅子文六は、東京?兜町を舞台に、「ギューちゃん」こと丑之助が活躍する『大番』を書いた。加東大介の主演で映画にもなった。

 株や相場での金言が出てくる。「もうは、まだなり。まだは、もうなり」。売り時、買い時の難しさのことだろう。こんなのもある。「人の行く裏に道あり花の山」

 生き馬の目を抜くとも言われてきた株の世界で、ニッポン放送株を巡って激しい攻防が続いている。時間外取引という策で株を手にしたライブドアに対し、ニッポン放送?フジテレビ側は、株を倍増させてライブドアを振り切ろうとする策に出た。新しい大量の株で相手の株を一気に薄める作戦のようだ。

 昨日の市場では、3社の株は共に下がった。「生き物」とも「化け物」ともいわれるこの世界だ。今後の展開は分からないが、メディアの行方にかかわることでもあり、気にかかる。

 米国の伝説的な相場師で、1929年の金融大恐慌を予言したともいうギャンは、取引に際して、旧約聖書の「伝道の書」の一節を念頭に置いていた。「かつてあったことは、これからもあり、かつて起こったことは、これからも起こる。太陽の下、新しいものは何ひとつない」(『W?D?ギャン著作集』日本経済新聞社)。

 インターネット対ラジオ?テレビという構図のせいか、今回の攻防は、これまでになかったもののように見える。しかし「花の山」を巡る争いと見るならば、何ひとつ新しいものはないのかも知れない。