昨日の関東地方は、急に春めいて気温が上がった。同時に花粉の飛散も増えたようで、東京での花粉情報は「非常に多い」。街では、マスクをかけた人が目立った。

 スギ花粉の飛散予報が始まったのは、87年の3月9日である。当時は、花粉症と聞いても他人事(ひとごと)のように思っていたが、数年前からは、ごく軽いものの、目がかゆくなったり、くしゃみが出たりすることがある。

 本紙の全国世論調査では、回答者の3分の1強が、花粉症の何らかの症状を自覚していた。「花粉症だ」と答えた人の割合は、政令指定市や東京23区などの大都市の方が、ほかの市や町村部より高かった。

 一種の「都会病」のようにも見えるが、スギ花粉症が医学的に確認されたのは、杉並木で有名な栃木県の日光だった。63年、古河電工の病院に赴任した斎藤洋三医師が、鼻や目のアレルギー症状を訴える患者が春に増えることに気づいた。

 日本でのブタクサ花粉症の論文などを読んで、斎藤さんが周りを見回すと、立派なスギが目に入った。スギの木に花が咲くなどとは思いつかなかった。しかし林に入ってみると、ちょっと触れただけでたくさんの黄色い花粉を飛ばす雄花が、小枝の先にびっしりとついていた(『スギ花粉症』すずさわ書店)。

 花粉症歴?数十年の知人が「スギは伐(き)ってほしい」と言っていた。重症の人は相当つらいのだろうが、やみくもに伐るわけにもいくまい。はるか遠くにある自然を肌で感じた結果が「症状」になってしまうとは。人と社会と自然との、大きな釣り合いの崩れを感じる。