「犬と雄鳥」「襟巻と金雀児(エニシダ)」「天使」「愚者」。これらはいずれも、昔の騎士団に付けられていた名前である(『新版?西洋騎士道事典』原書房)。「白い隼の騎士団」や「美徳と隣人愛の奴隷の騎士団」もあった。騎士にとっては、馬の背こそが戦場であり、馬は、力と王権の象徴でもあったという。

 いにしえの時代の騎士が、突然、現代日本の空から舞い降りたような様相になっている。ニッポン放送の株を巡るライブドアとフジテレビの争いに、ソフトバンク系の投資会社が参入し、「ホワイトナイト(白馬の騎士)」になぞらえられた。

 敵対的な買収を仕掛けられた時に、防衛のための「援軍」になる企業を、そう呼んでいるという。しかし、その「援軍」が生殺与奪の権を握るとしたら、後に災いを招く「トロイの木馬」になる可能性も指摘されている。

 ニッポン放送から投資会社に貸し出されるフジテレビの株は「クラウンジュエル(王冠の宝石)」と形容された。電子の回線を張り巡らせた21世紀の市場での厳しい攻防に、馬にまたがった古い騎士と宝冠の物語が絡み合う不思議な取り合わせになっている。

 白馬の騎士では、聖書の「ヨハネの黙示録」が思い浮かぶ。「小羊が七つの封印の一つを開いた……見よ、白い馬が現れた。それに乗っている者は、弓を持っていた。彼は冠を与えられ、勝利の上にさらに勝利を得ようとして出て行った」(共同訳)。

 現代の冠と白馬の騎士とは、どこに、どう帰着するのだろうか。「メディアの騎士団」同士の戦いだ。