スマトラ島沖の地震では、住民が各地でパニックに陥ったと報じられた。地震後、津波を恐れた人たちが焦って高台を目指し混乱したという。

 パニックは、時には群衆による圧死などの惨害をもたらす。しかし、人々のパニックへの傾きを、単純に「不合理な行動」とは言えない。

 冷戦の頃、戦域核兵器の配備がとりざたされていたオランダで、住民がパニックに陥ったという。きっかけは、空軍基地に原爆が投下された場合を想定したラジオ番組だった。「いつか核攻撃があるかもしれない」という現実の不安と、仮定の世界のラジオ番組とが重なってしまったのだが、人々が混乱するのはむしろ自然で、無理からぬものだったと思う。

 スマトラの場合も、大津波襲来への不安はかなり大きかっただろう。地震の起き方によっては、それも十分ありえたのだから、ひたすら海から逃げようとしたのは理にかなっている。問題は、正確な情報の速やかな伝達と、住民への的確な指示があったかどうかだ。

 今回は、気象庁が素早く各国へ津波情報を発し、大津波の時の苦い経験が、情報の支援では生きた。しかしインドネシアなどでは、警報の発令と伝達や住民への指示に問題があったようだ。

 約700年前にスマトラに上陸したマルコ?ポーロが『東方見聞録』(東洋文庫)に記す。「皆さんをびっくりさせるに違いない異常な事態がある……この土地がはるか南方に位しているため、北極星も北斗七星も共に見えない」。はるか赤道直下の島々へ、情報だけでなく支援も厚く届けたい。