領土は、東京の上野公園よりも少し小さい。以前、この世界最小の国?バチカンの内側に行ったことがある。

 小さいながら駅があり、銀行、マーケットにテニスコートもあった。電話交換の修道女には約10カ国語を聞き分ける人がおり、放送は35カ国語で流していた。国家の小さな模型のような現場は見られたが、法王庁の中心部分には近づけなかった。

 約11億人に及ぶカトリック教徒の頂点に立つローマ法王に、ドイツ人のラツィンガー枢機卿が選ばれた。ナチスの青少年組織ヒトラー?ユーゲントに義務的に入っていたことがあり、第二次大戦の終戦時には米軍の捕虜だったという。

 新法王に決まる前「入りたくはなかったが、当時は仕方がなかった」と述べた。この経歴に抵抗を覚える人は少なくないだろう。しかし新法王に今問われるのは、若い日にナチズムの波をかぶった点ではない。自らの負の体験をもとに、21世紀の世界に何ができるかではないか。

 新法王はベネディクト16世となった。6世紀の聖人ベネディクトゥスは、欧州の修道院の根幹をなす規範を作った。彼を慕って多くの弟子が集まったが、嫉妬(しっと)され、命をねらわれた。毒入りの飲み物を勧められた時、祈りをささげることで無害なものにしたとの伝説もある(『聖者の事典』)。

 前法王のヨハネ?パウロ2世は、故国ポーランドでナチスによる占領を体験し、抵抗しながら宗教家への思いを培った。それとは対極の側で青年期を過ごした人が、すぐ後をつぐ。終戦から60年という時の移ろいを感じさせられた。