見出しに大きく「和解」と刷られた新聞各紙を見ていて、諺(ことわざ)を題材にしたブリューゲルの絵が思い浮かんだ。ライブドアとフジテレビという現代のメディア同士の攻防が、16世紀の欧州の画家が描いた寓意(ぐうい)の世界と、なぜか通い合う。

 「大きな魚は小さな魚を食う」という絵は、大魚の腹にのみ込まれた中ぐらいの魚が、さらに小さな魚をのみ込んでいるさまを描いている。力の強い者が弱者を支配するという諺で、日本ならば弱肉強食か。攻防の始まりは、この諺の逆で、小さな魚が大きな魚をのみ込むのか、という緊迫感があった。

 ブリューゲルの大作「ネーデルラントの諺」には、数多くの諺を表す人や動物や風俗が画面いっぱいにひしめいている。「一本の骨に犬二匹」は、ふたりの人間が地位や財産で争うたとえだ(『ブリューゲルの諺の世界』白凰社)。

 「仔牛が溺れてから穴をふさぐ」は、事件が起きてから対策を立てる。「歯まで武装」は完全武装、「燃える炭火の上に座る」は、落ち着かないさまだ。司法の場で負け続けたフジ、ニッポン放送側の対応ぶりを思わせる。

 「親指の上で世界を回す」は、何もかも意のままに支配する人、「うまく世渡りしたいのなら、身をかがめねばならぬ」は、出世のために狡猾(こうかつ)な手段を使う。株の「時間外取引」が狡猾かどうかの見方は分かれるだろうが、この一撃は、世の経営者や株主をぎくりとさせた。

 両者「痛み分け」の和解だという。一方で、巨額の利益を得た米証券もある。巨利を腹に収めた大きな魚は、もう遠くを泳いでいる。