踏切での衝突事故でもなければ、電車同士の衝突でもない。それなのに、これほどまでに多くの犠牲者が出てしまったのはなぜなのか。兵庫県尼崎市のJR宝塚線(福知山線)での脱線事故の現場は、最近の鉄道事故では見られなかったような、すさまじいものとなった。

 マンションに衝突した車両の車体は、まるでブリキのようにくねって、ぺしゃんこになった。現場近くの線路では、車輪が石を踏みつぶしたような跡がみつかったという。原因究明を迅速に進めてもらいたい。

 電車がいつもより速いスピードで走っていたという乗客の話もある。手前の駅で行き過ぎて戻ったために遅れが出て、取り戻そうと急いでいたとの推測もある。宝塚線は、尼崎駅で他の線と接続しており、わずかなダイヤの乱れが乗り入れ先の路線にも影響を及ぼす。乗務員は遅れを出さずに運行することを会社から求められていたという。

 ここで思い起こすのは、整備ミスや運航規定違反が続いた日本航空が、国に提出した回答書のことだ。一連のトラブルの背景の一つとして「定時発着を優先し、大前提である安全がおろそかだった」と述べている。

 公共の交通機関にとっては、「定時」は信用の要だ。しょっちゅう遅れていたのでは利用者から厳しく問われる。しかし、肝心の安全の方が失速してしまったら、取り返しがつかない。

 全国の交通機関は、安全がおろそかになっていないかどうか、再点検してほしい。どんなに遅れが大きくなろうと、永遠に着かないという悲惨さとは、比べようもない。