スプーンを口に近づけられると、いやいやをする。舌が飛び出してくる。いったん口に入れた食べものをプーと吐き出す子もいる。

 国立病院機構?千葉東病院の重症心身障害児の病棟である。ここの子どもたちは、一人では食べることも飲むこともできない。その訓練を見せてもらう機会があった。

 看護師さんらがやさしく声をかけて緊張をほぐす。子どものあごに手を当てて、口をゆっくり閉じる。そうすれば、もぐもぐできるようになる。指導する歯科医師の大塚義顕さんは「食べることは生まれついての能力ではなく、段階を踏んで学んでいくものです。その学習に障害児は時間がかかる」という。

 もとはといえば、約30年前に当時の歯科医師らが子どもたちの口の中を清潔にしようと考えたのがきっかけだ。管からではなく、口から食べることの大切さに気づき、千葉東病院は障害児の訓練の先駆けとなった。昨年末には人事院総裁賞を受けた。

 「おいしいものを子どもに味わわせたい。それは親のだれしもの願いです」。そう語るのは全国重症心身障害児(者)を守る会の北浦雅子会長だ。施設で暮らす次男の尚さんはウナギが大好き。細かくつぶすと、しゃべることはできないが、もっとほしいと笑顔で催促する。逆に酸っぱいものだと、動かせる左手で払いのける。

 きょうの夕食の献立は何ですか、と先週、千葉東病院に電話した。鶏肉とピーマンのみそいため、ナスとベーコンの煮物……。ごちそうを前にした笑顔が思い浮かんだ。そこには、入院して30年を超える人もいる。