阪神方面から帰京する新幹線で、『「映画 日本国憲法」読本』(フォイル)を開いた。この妙なタイトルには多少の説明が要る。

 4月下旬、東京で「映画 日本国憲法」(ジャン?ユンカーマン監督)の上映会があった。日本国憲法について世界の知識人が語るドキュメンタリーで、初回に約700人が来場した。当方は立ち見だったが、100人ほどが入れなかったという。

 映画をもとに構成したのが『読本』だ。「日本は立派な国家です。しかし、自分自身の声で発信し、アメリカと異なるアイディアを明瞭(めいりょう)に示す勇気をもつことができませんでした」。日本の戦後史を描いた『敗北を抱きしめて』でピュリツァー賞を受けた歴史家ジョン?ダワー氏だ。「(日本が)アメリカのような『普通の国』になりたいというのなら、現時点で恐ろしい話ではないですか……アメリカはますます軍事主義的な社会になってきているのですから」

 国内に「改憲ムード」が広がっているようだ。確かに憲法と自衛隊との関係はねじれている。しかし例えば日本が「軍隊を持つ」と表明することの重みがどれほどになるのか、詰めた議論が世の中に行き渡っているとは思えない。

 日本や世界の未来が米国に左右されかねないという時代に、米国との関係をどうするのかも緊急の課題だ。改憲案より、どんな国をめざすのかを詰める方が先ではないか。

 家族連れの多い新幹線の中を見渡す。将来、わが子が軍人になり、外国の戦場に行く。そんなことを思いめぐらす親など、いそうもなかった。