42歳で早世した作家、野呂邦暢が芥川賞を受賞した「草のつるぎ」は、陸上自衛隊に入隊した体験がもとになっている。ある日の訓練では「緑色の短剣を逆に植えつけたような草むら」が、小銃を手にして匍匐(ほふく)前進する若い隊員たちに立ちはだかる。

 「硬く鋭く弾力のある緑色の物質がぼくの行く手に立ちふさがり、ぼくを拒み、ぼくを受け入れ、ぼくに抗(あらが)い意気沮喪させ、ぼくを元気づける」(『野呂邦暢作品集』文芸春秋)。外の世界では体験できないような隊内での二十歳前後の日々を、躍動的に描いた。

 イラクで襲われて行方不明になった斎藤昭彦さんも、二十歳の頃は陸上自衛隊員だった。高校時代から友人に「外人部隊に入りたい」といっており、仏外国人部隊に入隊する。自衛隊は、その過程だったのか。

 家族とは、しばらく音信不通だった。最近は英国系の警備会社に属し、バグダッドから米軍基地に機材を運んだ帰りに襲われたという。イラクでの危険は覚悟していたのだとしても、実際に生命が危機にさらされた場面を思うと言葉も無い。

 近年、国家の役目の一部を肩代わりするような民間の戦争ビジネスが拡大している。昨年夏にイラクに居た民間の軍事要員は2万人ほどで、アメリカ以外の多国籍軍兵士の総数にほぼ匹敵する(シンガー『戦争請負会社』NHK出版)。

 こうした民間企業の活動には規制と監視が無いと、著者は憂慮する。そして21世紀にはこんな格言がいるかもしれないと警告する。「戦争は民間業界に任せるにはあまりにも重要すぎる」