通り道の横断歩道で、時にこんな光景を見かける。信号が青になると、近所同士らしい母親たちが押す乳母車が、幾つか連なって渡り始める。ゆっくりと、にぎやかに進む無防備な行列の安全は、赤信号では車が止まるという約束に支えられている。

 青信号で、国道の横断歩道を渡っていた高校1年生の列に、飲酒運転とみられる車が突っ込み、3人が死亡した。宮城県多賀城市での事故は、交差点での約束を踏みにじった。

 青信号でも車が突っ込んで来るのでは、歩行者は身の守りようがない。「避殺橋」などという形容も聞かれる歩道橋は、お年寄りには骨が折れるし、どこにでもあるわけではない。青信号でも左右を確かめて、あやしい車はやり過ごすぐらいしか手はないのか。

 近年、酒酔い運転での事故に対する罰は厳しくなっている。しかし、事故を予防する、より強い手だてが要るのではないか。例えば「酒酔い運転」の場合だけではなく、「酒気帯び運転」だけでも免許を取り消すのはどうか。運転者の酒気を感知したら、エンジンが掛からなくなる車すら夢想する。

 多賀城の現場は、芭蕉がたどった「おくのほそ道」の道筋に近い。道の幅は、相当広がったはずだ。しかし、ここに限らず、幅を利かせているのは車で、人は細い通路に押しやられているのではないか。

 亡くなったひとりは、中学の卒業文集では、「18歳の自分」に「あなたはいま何をしていますか」と記していたという。それが15歳で、学校行事のさなかに、青の横断歩道で、一瞬のうちに未来を断たれた。