日本人が初めて世界を一周したのは、江戸後期のことだった。鎖国の時代で、旅でもなければ貿易でもなかった。

 1793年、今の宮城県の石巻から米を積んで江戸に向かった千石船?若宮丸は、嵐に遭って北へ流された。アリューシャン列島に漂着し、後に乗組員はロシアを横断することになる。そして、ロシアの船に乗せてもらい、大西洋、太平洋を航海、石巻を出てから11年後に長崎にたどり着いた。最初の乗組員16人のうち、故国の土を踏んだのは4人だけだった。

 漂流に始まる過酷な世界一周から約200年がたつ。今では、何度か世界一周を繰り返す人も少なくない。飛行機なら数日でも可能になった。しかし小さなヨットで、しかも独りだけでとなれば、今も大きな危険をはらむ冒険だ。

 単独のうえに無寄港という試みに、ふたりの日本人が相次いで成功した。ふたりとも、年齢の上では若い方ではない。6日に帰港した斉藤実さんは71歳で、単独無寄港世界一周では最高齢という。7日にゴールに入った「太平洋ひとりぼっち」の堀江謙一さんは、66歳になった。周りの支えがあるとはいえ、ふたりの元気な姿と笑顔は、人間ひとりが備えている力の大きさや勇気、不思議さを思わせる。

 堀江さんは、96年には空き缶を再利用した船体で太平洋を横断した。その時、「太平洋を渡りたいから渡った34年前と、気持ちは同じです」と述べている。

 人生は、航海になぞらえられる。そのせいか、「渡りたいから渡った」という言葉は、決然として潔く、そしてまぶしい。