将軍徳川家治は玄人はだしの絵を描いた。何しろ仕事は、臣下の田沼意次が一手に裁いてしまう。自身はもっぱら画業に励み、会心の作には「政事之暇」という落款を押して各方面に配った。よほど暇だったらしい。

 首都の「政事」は暇なのか、忙しいのか。石原慎太郎都知事が週に2、3日しか出勤しないと話題になっている。仕事は30年来の腹心である副知事に任せ、月曜や火曜に登庁しない週が増えた。知事の決裁を得るなら水木金というのが、都庁内では半ば常識化していた。

 1期目は違った。まめに登庁し、局務報告や会議をこなした。2期目の今は午前の公務も減った。知事の近著『老いてこそ人生』(幻冬舎)には、8時間睡眠では寝不足で能率が上がらず、次の日必ず12時間は眠るとある。朝が苦手なのかもしれない。

 都によれば、在庁しない日でも、知事は「終日庁外」で働いている。都議会では自ら「国の役所を含めて外でしかできない仕事もある」と答弁し、会見でも「毎日同じ机に座っているのが能じゃない」と述べた。

 ほかの知事はどうか。大阪府の太田房江知事は週5日ほぼ皆勤で、週末もよく登庁する。愛知県の神田真秋知事も、平日は必ず朝から出勤という。同じ作家出身の田中康夫長野県知事は、出張の多さが目立つが、登庁率は石原氏ほど低くはない。

 都知事の給与は年2796万円という。ほかに原稿料や印税収入が大きい。頼みの副知事を泣いて斬(き)るからには、今後はきっと忙しくなるだろう。登庁は週4日、いや初心に帰って週5日だろうか。