AEDをご存じですか。自動体外式除細動器といっても、ますますわかりにくいかもしれない。乱暴にいえば、心臓が突然止まった時に、電気ショックを与えて、心臓の動きを元に戻すものだ。1年前、医師や救急救命士に限らず、だれでも使えるようになった。空港やホテルなどに置かれつつある。

 銭湯にもあると聞いて、東京?市谷の大星湯を訪ねた。「AED」のステッカーがはられ、現物はフロント横の棚にちょこんと載っていた。経営者の前田哲也さん(37)は「地域の人たちにお役に立てればと思って」という。

 大星湯は7年前から人工呼吸や心臓マッサージの講習をしている。この町のために何かやれないか。若い経営者たちで話し合った時に、救命講習を受けたことのある前田さんが手を挙げた。受講生は銭湯のお客さんたちだ。年に数回、脱衣場が講習の場に変わる。AEDを置くのは自然な流れなのだ。

 自宅や路上で心停止をきたす人は年2、3万人といわれる。先月末と今月初めには、愛知万博の会場で、AEDが役に立ち、男性2人が命をとりとめた。

 東京都済生会中央病院副院長で、心臓病を専門にする三田村秀雄さんは「救急車が来る前に使うのがAEDです。将来は消火器のように一家に1台ほしい。行政が交番や消防団員宅に置き、普及を図るべきです。そうすれば値段も下がる」という。

 買えば数十万円。レンタルしている大星湯は月約7千円の持ち出しだ。それでも前田さんは「銭湯は深夜まで開いています。救急の地域の拠点になりたい」と話している。