シャーロック?ホームズと言えば、難事件を解決する名探偵だ。しかし、時には失敗もあった。犯人に出し抜かれて、助けを求めに来た依頼人が殺されてしまう。南北戦争後の米南部を背景にした短編「オレンジの種五つ」である。

 オレンジの種の入った封筒を送りつけられた人物が、次々と謎の死を遂げる。秘密結社のクー?クラックス?クラン(KKK)の仕業だった。ホームズの話は物語だが、KKKは、奴隷解放に反発して白人至上主義を唱えた実在の右翼団体で、今も小規模ながら存在する。

 この組織の名を、久しぶりに聞いた。41年前、米ミシシッピ州で、黒人の地位向上に取り組む活動家3人が殺された。白人の組織的犯行だったが、南部の人種差別の壁に阻まれて真相解明が進まなかった。裁判がようやく動き出し、主犯格のKKK元幹部が有罪判決を受けたのだ。

 KKKで連想するのは、白い山型ずきんとガウン、燃えさかる十字架だが、被告席に現れたのは、酸素吸入のチューブをはめた80歳の車いすの老人だった。

 地元では「時代は変わった。古傷にさわるな」という声も強い。検察官は「あまりにも長い間、我々は重荷を背負ってきた」と町の汚名返上を説いた。殺人1件につき禁固20年、合計60年の判決が出た。被告は上訴したが、有罪が確定しても、刑期を務める時間はどれほど残されているのか。

 ちなみに物語の方は、ホームズが周到に復讐(ふくしゅう)の網を張ったが、脱出する犯人を乗せた船は、嵐で大西洋の藻くずと消えた。裁きは人間を超えた所から来たのである。