小泉首相は、今回の東京都議選では、街頭での応援演説を一切しなかった。前回とは大きな変わりようで、「今回は分が悪いから行かないんだ」との声も首相周辺にはあったという。

 開票の結果、自民はやや後退し、民主党が伸びた。小泉演説がなかったから後退したのか、それとも、なかったから、やや後退で済んだのだろうか。

 投票率は約44%で、過去2番目に低かった。政党の側では、都議選を次の国政選挙との絡みの中でみていて、都民の生活をどう変えるのかという論戦は乏しいようだ。本来なら都議選は、首都?東京をどんな都市にしていくのかというような未来像を浮かび上がらせる場でもあるはずだ。

 「今ノ東京ヲコンナ浅マシイ乱脈ナ都会ニシタノハ誰ノ所業(しわざ)ダ」。東京?日本橋生まれの作家?谷崎潤一郎が「瘋癲(ふうてん)老人日記」にそう書いたのは、64年の東京オリンピックの少し前だった。「アノ綺麗(きれい)ダッタ河ヲ、オ歯黒溝(はぐろどぶ)ノヨウニシチマッタノハミンナ奴等デハナイカ」。「奴等」とは、「昔ノ東京ノ好サヲ知ラナイ政治家」だという。

 谷崎は、大正末の関東大震災の後、関西に移り住んだ。震災から約10年後に、「東京をおもふ」を書く。「今の東京はコンクリートの橋や道路が徒らに堅牢にして人は路上を舞つて行く紙屑の如く、と云つたやうな趣がないでもない」

 谷崎が没して、今月で40年になるが、警句は今に生きている。そしてそれは、東京以外にも投げかけられている。その地の未来を左右する「奴等」を選ぶのは、他でもない住民自身なのだから。