——そして誰もいなくなった。こんな副題の付いた紙芝居「あすなろ村の惨劇」を見た。といっても民主党のホームページの上でである。「やればできる!」を副題にした郵政民営化推進の自民党の紙芝居「あすなろ村の郵便局」に対抗して作られた。

 「みんないいかい、売れるものは何でも売ってくれ」。民営化された郵便局の局長が叫ぶ。小さな店が次々につぶれ、村はさびれてゆく。やがて郵便局は、人口減などで収支が悪化して閉鎖される。「そして、誰もいなくなった村には、人気のない閉ざされた郵便局だけが、廃墟となって残されていた……おわり」

 「やればできる」の方は、郵便制度をつくった前島密を登場させて、未来の郵便局を夢のように描く。「田舎の暮らしが便利になれば都会に行ってる仲間たちも、きっとこのあすなろ村に帰ってくるなあ」と、村の郵便局員に語らせる。

 佐藤春夫が「紙芝居の魅力」を書いている。「もうこれ以上には無駄を去ることが出来ないといふところまで追ひつめてゐるあの方法あの構造のせいではあるまいか」(『定本 佐藤春夫全集』臨川書店)。「あすなろ村」の2作に、この紙芝居の妙味はあるか。

 郵政民営化法案が衆院を通過した。賛否の差はわずかだったが、議場のテレビ画面からは、緊迫した感じはうかがえなかった。造反や処罰、果ては解散などという言葉まで飛び交うさまは、筋書きの定まった芝居を演じているようにすら見える。

 賛否双方の紙芝居だけではなく、国会の審議にも、真実味が乏しい。