茨城県取手市で書道を教えている松本恒子さんは84歳である。地元の合唱団の仲間約120人といっしょに、ドイツへ行って、ドイツ語でベートーベンの「第九」を歌ってきた。

 歌い終えると、ドイツの人たちから大きな拍手。「やった、という感じでした。それにしても、10年おきに2度もドイツで歌えるなんて、思ってもみなかった」

 松本さんが取手第九合唱団に加わったのは、91年のことだ。歌は好きだが、「第九」ともドイツ語とも縁がなかった。テープを聴いて、歌詞を丸暗記した。その5年前に生まれた合唱団の2度目の演奏会だった。

 このあと、「次はベートーベンの母国で」という声が上がった。「最初は、とても無理だと思われていたのですが」と言うのは小野耕三さんだ。合唱団のいまの代表である。合唱団には会社員、公務員、商店主ら様々な人がい る。つてを求めていくうちに、バーデンバーデンの交響楽団が共演を引き受けてくれた。

 それが95年のドイツへの初めての旅となる。その5年後、バーデンバーデンから指揮者のW?シュティーフェルさんを招いて、取手で演奏会を開く。そして、今回のドイツ再訪である。小野さんは「こんなに長く続いたのは、5年に1回というペースだったからだと思う。手づくりの演奏会は、準備や資金の手当てが大変なのです」という。

 このゆったりとした歩みがいいのだろう。早くも、「5年後もドイツで」という声が出ている。松本さんは「5年後ならば、行けるかもしれない。ぜひ行きたいですねえ」と話している。