のんびりと、牛が草をはむ。おいしそうに食べているのは、クズ、シロザなどふつうは雑草と呼ばれる草木だ。伸び放題の黄色いセイタカアワダチソウも平らげる。

 草刈り用に牛を貸し出す。その名も「レンタカウ制度」。瀬戸内海に面する山口県柳井市で、ことしもやっている。人影の少ない、山あいの休耕田に、4頭の黒毛和牛を放っている。

 牛を借りるのは、年老いて農作業がつらくなった農家が多い。周りの田んぼの稲が青々と育つなか、草だらけにしていては害虫がわく。迷惑をかけまいとして、草刈りをシルバー人材センターに頼むと、金がかさむ。炎天下での作業は、請け負う人もきつい。

 ならば、牛に食べさせたらどうだろう。4年前に、市長の河内山哲朗さん(47)が言い出した。農地が減り続け、畜産も振るわない。ため息が重なる農業関係の集いでのことだ。牛を使えば、人件費も、えさ代も浮く。借り手も貸手も都合がいい。さっそく農協が事業化した。今夏は7軒の農家が利用する。

 手間もかからない。放牧地の周囲に2本の電線を張る。そこに太陽電池で電気を流すと、さくになる。持ち運びも取り外しも簡単だ。市の試算では、5千平方メートルの草刈りを人間がやれば、2人で2日かかる。運搬処理費も含めて5万円なり。牛なら、2頭がそこに寝泊まりして約50日で食べ尽くす。機材費込みで2万4千円ほど。

 牛はもぐもぐと黙々と働く。こんなのどかな光景が全国の休耕地に広がったら気持ちよかろう。そう思った瞬間、きょとんとした眼の牛と目が合った。