平らな地面に、わざわざ高い枠を置く。ひとつだけではなく、その先にもそのまた先にも置いておく。ハードルが立ち並んだ障害競走のコースには、人間がスポーツのルール作りで見せるユーモラスな一面が映っている。

 英国に源流があるという。牧羊業などで土地の「囲い込み」が起きた後、できた垣根を使った馬による競走の時代があった。現在のような競走の元は、19世紀半ばのオックスフォード対ケンブリッジの大学対抗戦のレースだった。羊の囲いが使われた(宮下憲『ハードル』ベースボール?マガジン社)。

 昨日の未明、寝苦しさで起きてテレビをつけると、陸上の世界選手権を中継していた。為末大選手が出る400メートル障害の決勝が始まるところだった。ヘルシンキはどしゃぶりだ。これも一つの障害かと思った時、号砲が響いた。

 選手がハードルを越える瞬 間の形が美しい。足を思い切り伸ばし、一方の足を素早く持ちあげる。前傾した上体と道筋を読む目が、獲物を追うしなやかな動物のようだ。

 最終コーナーを回る頃、為末選手の口がかすかに開き、ほほえんだように見えた。最後はもつれたが倒れ込んで銅メダルを手にした。不振、不運、父の死を経て「勝利」をつかんだ。雨と汗と涙の入り交じるゴールインだった。

 宇宙からは、野口聡一さんたちのスペースシャトルが、無事ホームインした。難しい任務をしっかり果たしたという満足の笑みもいい。天と地と、ふたりの道は違っても、ハードルを乗り越えた姿には、周りをも力づける輝きが宿っている。