阪神甲子園球場で続いた戦いが終わった日、四国の松山では、もうひとつの「甲子園大会」が始まっていた。「俳句甲子園」、全国高校俳句選手権大会である。

 正岡子規や高浜虚子を輩出した松山市で、松山青年会議所が主催して開かれてきた。8回目の今年は、全国20都道府県から36チーム約200人が出場した。決勝戦では、「本」という題で、東京の開成と茨城の下館第一が対決した。

 「寒月や標本の鮫(さめ)牙を剥(む)く」(開成)。「遠雷や絵本に溶ける夢を見た」(下館第一)。5句ずつ詠んで審査員が判定を下し、開成が一昨年に続く2度目の優勝を果たした。今回提出された1260句の中の最優秀句は「土星より薄(すすき)に届く着信音」。京都?紫野高3年、堀部葵さんの作である。

 個々人の表白である俳句と、チームを組んで勝ち負けを競い合うこととは、直接には重ならない。しかし、一句一句が五?七?五という極めて限られた言葉?文字への限りないダイビングだと考えれば、団体戦にも新しい妙味が宿る。

 たったひとつの白球への限りないダイビング、とも言える野球に通じるところがある。青春の一時期に、友と手をたずさえて見知らぬ相手と触れ合い、磨き合うのもいいことだろう。

 これまでの大会での秀句から。「かなかなや平安京が足の下」「小鳥来る三億年の地層かな」「夕立の一粒源氏物語」「裁判所金魚一匹しかをらず」「のどぼとけ蛇のごとくに水を飲む」「長き夜十七歳を脚色す」。若い感性が周りや自分と出会って生まれた、一瞬の詩(うた)である。