日本で最初の総選挙は、明治23年、1890年に行われた。当選した中江兆民に「平民の目さまし——一名国会の心得」という一文がある。

 政党とは「政事向に就て了簡の同じ人物が若干人相合して一の党を為し他の党と張り合ふことなり」と記す(『明治文学全集』筑摩書房)。了簡(りょうけん)とは、考えや所存などを指す。今なら政権公約か。それを一言に凝縮したような総選挙用のキャッチフレーズが出そろった。

 自民党の「改革を止めるな。」は党というより党首の了簡のようにも見える。ポスターは小泉首相の4年前の写真を再利用した。人は時とともに姿形を変えてゆく。その変容は止められないが、ポスターの時間は4年前で止められた。

 民主党は「日本を、あきらめない。」。「政権を、あきらめない」とも聞こえるが、政権を狙うにしては言葉に勢いを欠く印象だ。「日本を前へ。改革を前へ。」と与党の公明党。日本をというよりも、小泉首相を前へ押し出しているさまを連想させる。

 共産党は「たしかな野党が必要です」。確かにそんな党は必要だが、この国をどうするのかも気に掛かる。「国民を見ずして、改革なし。」は社民党。姿勢は見えるが、「改革」という「小泉語」に引きずられてはいないだろうか。「権力の暴走を止めろ!!」と国民新党。「権力」を、ある人名に言い換えると、思いがにじむ。新党日本は「信じられる日本へ。」。「信じられる党」には、なれるだろうか。

 標語のような一言だけで「了簡」を見極めるのは難しいが、その構えはうかがえる。